★ 【Love is Beautiful Energy!?】錬金術師の甘い災難 ★
クリエイター犬井ハク(wrht8172)
管理番号102-6521 オファー日2009-02-01(日) 00:11
オファーPC クレイ・ブランハム(ccae1999) ムービースター 男 32歳 不死身の錬金術師
ゲストPC1 ニーチェ(chtd1263) ムービースター 女 22歳 うさ耳獣人
<ノベル>

 二月十四日。
 華やかでうきうきとした一日には相応しくない喧騒で物語は始まる。

 午前十一時を半ばほど過ぎた、通行人たちがランチを算段しながら歩く公道の一角に響き渡るのは、
「な……」
 甲高い悲鳴、泣き声、ドアの閉まる荒々しい音、排気音。
 ――そして走り去るワゴン車。
 一連の流れを、クレイ・ブランハムは呆然と見送った。
「何だったのだ……」
 クレイは、ざわざわとざわめいている通行人たちの大半と同じく、ランチを摂るべく繁華街へ出て来ていた。何せ自炊しない研究馬鹿である、外食以外に養分を補給する術がない。
 ヘルシー思考で穏やか路線などという、昨今の流行などどこ吹く風、の(物理的にはある意味)肉食系男子であるクレイは、定食屋で焼肉定食にしてもいいし、トンカツ屋でロースカツ定食にしてもいいし、ハンバーグ・レストランで目玉焼き乗せハンバーグセットにしてもいいし、カレー屋で肉たっぷりカレー大盛りにしてもいい、野菜もきちんと摂らないとな……などと思いながら食堂街を歩いていたのだが、そこで天敵と出会って硬直した。
 天敵とは、兎獣人ニーチェである。
 モデルばりの素晴らしいプロポーションを誇る、華やかで気さくな美獣人だが、女性に抱きつかれると失神するくらいの女性恐怖症であるクレイに、お色気満載のセクハラ兎の猛攻は敷居が高過ぎる。
 しかし、ニーチェの方に悪気は一切なく、人のかたちを取っていれば老若男女オールオッケーという凄まじい無節操っぷりを誇るセクハラ兎は、脅威のパッションでもってクレイを襲撃――そう、クレイにしてみればそれはまさに強襲以外のなにものでもない――してくるのである。
 初めての出会いがいつだったのか、思い出すのも頭が痛いが、それ以降、あちこちで関わるようになって、クレイはニーチェにターゲット認識されてしまっている。
 今日も、そのような理由で、草食動物にあるまじき眼光のニーチェにとっ捕まってあんなことやこんなことまでされそうになったクレイは、悲鳴を上げて逃げ出そうとしたのだが、そこへ唐突に、物凄いブレーキ音を響かせたワゴン車が突っ込んで来て、一瞬ぽかんとなった。
 止まった車の中から、黒いツナギに目出し帽という格好をした男たちが数人、わらわらと降りて来て、ニーチェと、彼女の周囲にいた数人の若い女性を捕まえ、引きずって、ワゴン車の中に押し込めてしまったからだ。
 今日がどういう日なのか、知ってはいても理解したくないクレイはあまり気に留めていなかったが、ニーチェを含めて、女性たちは、一様に、ピンク色を主体とした可愛い紙袋を手にしていた。
 そして、冒頭のシーンに戻るわけだが、一体何が起きたのか判らず、ワゴン車が走り去ったあとも、クレイはしばし呆然としていた。
 攫われたのである。
 ニーチェが、悪漢たちに。
「……」
 咄嗟に思ったのは、これで安眠できる、ということだった。
 が。
「やれやれ……静かになってよかった。まぁ……事件は、誰かが解決するだろう、わざわざ私が手を出すこともあるまい」
 声に出して言ってみるが、どうも、収まりが悪い。
 しばしの沈黙。
 クレイは自分の足元を見て、
「……くそ」
 溜め息をつき、小さく悪態をつく。
 ――本当は判っている。
 あっという間に、なすすべもなく連れ去られたニーチェに対して、目の前での出来事に何も出来なかった自分の無力を。
 そして、いざいなくなると、なんだか物足りなさを感じることを。
「仕方ない……」
 大仰な溜め息とともにクレイは踵を返した。
 無論、対策課と警察に顔を出すためだ。
 ――昼食がまだだったが、この時には、空腹も忘れていた。

 * * * * *

「バレンタイン撲滅テロ集団?」
 対策課で上がったその名前を、クレイは鸚鵡返しに口にした。
「……なんなのだ、そいつらは」
 説明してくれた職員の話によると、彼らはムービーファン・ムービースター・エキストラをすべて合わせた十数人で構成されているという。
 バレンタインデーにチョコレートをもらえぬ憐れな男たちが、意中の相手にチョコレートを贈ろうと、胸にときめきと不安と恥じらいと期待を抱いた女性たちを誘拐し、目の前でそのチョコレートを食べるという、規模は小さいしせせこましいが、ある意味非道なテロを行っているのだそうだ。
 そういえば、あの時、確かにニーチェも可愛らしい色合いと柄の紙袋を持っていた。それで巻き込まれたのだろう。
 撲滅テロ集団の面子は、もてない恨みと切なさをバレンタインデーにぶつけているだけで、決してクレイのような女性恐怖症でもなく、また女嫌いでもないようで、彼女らを憎んでいるわけではないらしく、女性たちに怪我をさせるようなことはしないそうだから、それほど心配する必要もないかと思ったクレイだったが、
「な、私にそれを解決しろと言うのか……!?」
 人手が足りないという理由で、対策課職員数名に取り囲まれて拝み倒され、ニーチェのことが気になるのもあって、結局、不承不承引き受けてしまったのだった。
「はあ……何故、こうなるのだ……」
 盛大な溜め息をつきながら、クレイは市役所をあとにした。
 幸い、連中のアジトらしき場所は判っているので、そこへ潜入して女性たちを助け出せば事足りる。多少荒っぽいことも必要かもしれないが、クレイは戦うすべには長けている、素人に毛が生えた程度の集団が相手であるのなら、特に問題はないだろう。
「腹は減るし、面倒な以来は押し付けられるし」
 碌なことがない、と愚痴りつつ、アジトのある方角へ脚を向ける。
 せせこましい事件を起こしてクレイの手をわずらわせたバレンタイン撲滅テロ集団の男たちに関しては、先日クレイが開発した、“座ると涅槃が見える電気椅子 〜それって彼岸じゃね?〜”に数時間ばかり座らせてやりたい気分だが、まずは捕まっている女性たちの救出が先だ。
 それは判る。
 ……判るのだが、この依頼、女性と無関係でいられないというのが超・ネックだ。
 伊達に(?)数百年間女性恐怖症をやっていない。
 しかし、やらねばならない仕事に変わりはない。
 そして、
「……まぁ、その、なんだ。あいつを放っても、おけん……しな」
 ニーチェをあのままにしてはおけない、という気持ちがあるのも事実だ。
 そう、認めたくはないのだが、ニーチェのことが心配なのだ。
 そして、彼女を助けたら、その瞬間、先刻までの『襲撃』を思い出したニーチェが抱きついてくるような気がして、それを想像するだけで卒倒しそうになるが、そうでなくてはニーチェではない、と思っていることもまた、事実なのだった。
 そんなわけで、重い足を引き摺り、どんどん沈んでいく気持ちを叱咤激励して、人生最大の戦い(大袈裟なようだが本人的にはまさにこんな気分)に挑むクレイ・ブランハム、苦労性の五百三十二歳である。

 * * * * *

 一方。
 あれよあれよという間に攫われてしまったニーチェは、男たちに殺意がないことを敏感に察していて、特に彼らを恐れてはいなかったし、事態を悲観することもなかった。
 もともと、楽観主義の塊のような性質を持つニーチェである。
 囚われ、縄で拘束された他の女性たちが、啜り泣いていたり、不安そうな表情をしたりしているのを気の毒に思いつつも、彼女自身は、自分が何をすべきなのかを冷静に算段している。
「ただ捕まってるのも、飽きちゃったしねぇん」
 日々をひたすら楽しむ、がモットーの、野生的なパッションに生きる兎である。
 泣きながら助けを待つのは性に合わないし、そもそも助けなど端から期待してはいないし、自分を過小評価もしない。
「よいしょ、っと」
 ニーチェは身体を折り曲げて、自分を縛める縄に顔を寄せ、鋭い歯で持ってそれを噛み切った。
「兎の歯の丈夫さ、舐めないで欲しいわん、うふん」
 うふふ、と笑ってあっさり自由を取り戻すと、同じく拘束されている女性たちの縄を次々と噛み切り、彼女らも自由にしてやる。
 ありがとう、と弱々しく微笑む彼女らを力づけるように、ひとりひとりをぎゅっと抱き締めて背中を撫でてから、ニーチェは周囲を見渡した。
 武骨なコンクリートの、冷たい壁と床がニーチェたちを包み込んでいる。
 ワゴン車の窓は黒い紙で塞がれていたし、彼女らが押し込まれた後部座席と運転席をつなぐ空間にはカーテンのようなものが引いてあって、どこをどう通って辿り着いたのかは判らず、ここがどこなのかははっきりしなかったが、高性能な兎耳を通じて聞こえて来る物音や、空気の匂いから、ほとんど人通りのない、閑散とした一角であることは察せられた。
 空気の流れ、階下の物音からして、恐らく五階建て程度の廃ビルの、四階部分に彼女らはいる。
「さぁて……どうしようかしらん?」
 凄まじい瞬発力、脚力跳躍力を誇るニーチェだけならば、どこからでも逃げ出すことは可能だ。さすがに四階は危険が伴うが、犯人たちのいない二階三階の窓を蹴破って、飛び降りればいいだけの話だからだ。
 しかし、不安を、恐怖を隠せない、普通の女性たちを放ってひとりだけ逃げるなどということはニーチェには出来ないし、彼女らに自分と一緒に二階の窓から飛び降りろ、とも言えない。
「んー……こういう高い建物には、非常口、っていうのがあるはずなのよねぇん……?」
 周囲の物音を気にしつつ、広い空間を探す。
 とはいえ、彼女らをここへ放り込んだ男たちは、警察や対策課の介入を警戒して、少し前から下階での警備に当たっており――何やら『偉大な目的』とやらがあるらしいが、それは夜のお楽しみ……なのだそうだ――、多少物音を立てたところで問題はなさそうだったが。
 あちこち潜り込んで調べると、積み上げられたがらくたの向こう側に非常階段が見つかった。
 鉄製の、錆びて赤茶けた階段だったが、こっそり降りることは可能だろう。
「皆、ここから――……」
 言いかけたニーチェの耳を、銃声がつんざいたのは次の瞬間だ。
 たん、たん、という軽いハンドガンの音から、がぁん、がつん、という重々しいライフルの音まで、数種類の銃火器の音が響き、騒然とさせる。
「きゃーッ!」
 一番若い、まだ少女と言うべき女性が悲鳴を上げた。
 それを皮切りに、他の女性たちも悲鳴を上げ、恐慌をきたして右往左往する。騒動や事件に満ちた銀幕市といえども、市民のすべてが荒事に慣れているわけではないのだ。
「皆、落ち着いて! この非常階段は外の壁に設置してあるから、戦いが起きている正面入り口とは反対の方向に逃げられるわよん! 大丈夫、絶対に助かるから、落ち着いて、ゆっくり逃げるのよん?」
 ニーチェはまた、ひとりずつ抱き締めて背中をなでてやり――多少ニーチェの趣味が混じっていたのも否定はしない――、にっこり笑って女性たちを落ち着かせてやってから、彼女らをひとりひとり、非常階段に送り出した。
「あなたはどうするの、兎さん」
 少女の問いに、ニーチェはうふん、と笑った。
 犯人たちと銃撃戦を繰り広げている男の気配に覚えがある。
 助けに来てくれたのだ、と思うと、期待していなかった分、なんだか嬉しい。
「アタシ、ちょっと、用事があるから」
 コケティッシュにウィンクをして、彼女らを見送る。
 女性たちの足音が、彼女たちが無事に地上に降り立ったこと、そして銃撃戦の騒音に紛れて彼女らがそっと逃げ出したことを確認してから、ニーチェは階下へ向かう階段へと走った。
 ――当然、未だ続く銃撃戦の援護へ向かうためだ。

 * * * * *

 銃撃戦が行われていたのは、もともとは地下駐車場だったらしい空間だった。
 音を頼りに近づいたニーチェは、駐車場の真ん中で、数人の男たちと折り重なるようにしてクレイが倒れているのを目にし、さすがに息を飲んだ。
「クレイ! しっかりし――……」
 しかし、言葉は最後まで続けられなかった。
「残念だったな」
 柱の影から湧いて出たふたりの男が、ニーチェを取り囲み、捕らえてしまったからだ。
 じたばたともがくニーチェをかなり必死で押さえ込む――何せ、ニーチェのような兎型獣人は、細身だが筋肉質で身体能力が高いのだ――男の傍らで、片方の男が、未だ倒れたままのクレイに銃口を向ける。
「恋人を助けに来るとは見上げたやつだ……と言いたいところだが、我らがバレンタイン撲滅テロ集団『Loveless』にとっては、そのような男は皆敵だ。もてる男は死ぬがいい……!」
 口調は重厚だが言っていることはせせこましいというちぐはぐな台詞とともに、多分三十代半ばだろうと思われる男が、引鉄に指をかけた。
「クレイ、危ない、逃げてぇん!」
 思わず叫ぶニーチェ。
「む……?」
 その声に意識を揺さぶられたか、頭を振りながらクレイが身体を起こす。
 殴られたのだろう、頭からは血が出ていたが、クレイはそのことには言及せず、少しよろめきながら立ち上がった。
 クレイからニーチェまで、およそ十五メートル。
「……ニーチェ」
 クレイの青い目が、ニーチェを捉えて見開かれる。
 そのクレイに、銃口が狙いを定めている。
「クレイ、危ないわん、アタシのことはいいから、はやく逃げて!」
 男の手を振り解こうともがきながらニーチェが叫ぶと、クレイは眉根を寄せ、小さく首を振った。妙に眼差しが熱っぽい……というか朦朧としているように見えるのは、もしや頭を打った所為か。
「……馬鹿を言え」
 クレイは、自分に向けられる銃口などものともせず、躊躇もなく、ニーチェの元へ向かってくる。
「貴様は私が必ず助ける。――必ずだ、ニーチェ」
 やはり頭を打ったと思しき情熱的な物言い。
 こんな場面にもかかわらず、ニーチェがちょっぴりときめいたのは内緒だ。
「……いい度胸だ」
 そこで、男が引鉄にかけた指に力を入れるのが判った。
「駄目よ、クレイ!」
 クレイが撃たれるのを見ていられず、ニーチェは、右側で自分を押さえている男の、男として大切な部分を華麗な足技で蹴り上げ、潰れたような悲鳴とともに彼が引っ繰り返るのを待たず、彼の腕を振り解いてそこから逃れた。
 振り解いた際に体勢を崩して前のめりになり、転びそうになりながらクレイの元へ走ったニーチェを、
「……まったく、ハラハラさせてくれる……」
 クレイの力強い右腕が、抱き止め、支えた。
 クレイの体温が、腕を通して伝わって来て、ニーチェは透き通った赤目を大きく見開いてから、うふん、と笑った。
「それはお互い様よん」
 そして、クレイの腕を支えにくるりと回転。
 クレイが不可視のワイヤーを飛ばして男の銃を奪い取ったところへ、華麗にして強烈な蹴りをお見舞いし、彼を盛大に吹き飛ばした。
「ぐ……ぐは……っ!」
 悪役っぽい悲鳴とともに柱に激突し、そのままずるずると崩れ落ちる犯人。
「む、無念……だ、だが、これで終わりだとは思わない、ことだ……。バレンタインデーがある限り、第二第三の我々が、幸せな奴らに牙を剥くことだろう……!」
 やはり、口調に反して内容はせせこましい、ラスボスの断末魔。
「く、くそ、かくなる上は、せめて、このチョコレートを食って……」
 荒い息を吐きながら、男が懐から取り出したのは、ニーチェが持っていた紙袋だった。
「あらん? でもそれ……」
 ニーチェが首をかしげた辺りで、傍らでギャーという悲鳴が上がった。
「に、ニーチェ!? なななな何故貴様は私に密着するのだ……!」
 先ほどまでカッコよくニーチェを抱いていたクレイが、ものすごい勢いで腕を振り解き、三メートルほど一気に跳び退る。
 よほど驚いたらしい。
 そしてやはりあれは頭を打った所為だったらしい。
 さっきみたいな雄々しい態度は非常時だけなのねん、とニーチェが妙に納得していると、今度は前方からギャーという悲鳴が聞こえた。
「ち、チョコレートじゃ、ない……!?」
 驚愕の表情で男が手にする、ピンク色の紙袋から出てきたのは、新品の、ふわふわでフリフリできらきらなランジェリー。……そう、ニーチェが持っていたのは、お気に入りのランジェリー・ショップの紙袋だったのだ。
「わ、私の、野望が……!」
 ぶるぶる震えながらランジェリーを見下ろしたあと、そのまま崩れ落ちて気絶する犯人、ランジェリーなどという破壊力抜群の品を見てしまった所為で失神寸前のクレイ。
 ふたりを交互に見て、ニーチェはうふん、と笑った。
「もしかして、チョコレートが食べたかったのん? そっか、今日、バレンタインデーだったものねん?」
 言うと、露出度の高いセクシーな衣装から覗く、豊かな胸の谷間から、小さな箱を引っ張り出す。
 中には、濃厚なチェリー・ボンボンがふたつ。
 何故そんなところに入っていたのかなどと無粋なことを訊いてはいけない。当然、こういう、ロマンティック(?)なシチュエーションのために用意してあったのだ。
 ニーチェの体温で温められ、それはどこか、とろりとやわらかな光沢を放っている。
 ニーチェは、そのチョコレートを口に加えると、硬直しているクレイの元へつかつかと歩み寄り、
「クレイ、今日は、ありがとねぇん」
 そう言ってクレイの首に腕を回して背伸びをした。
 ヒィとかギャアとかいう悲鳴を飲み込むクレイに少し笑って、ぐっと顔を近づけ、口に加えたチェリー・ボンボンを、
「ななな何をすモガッ!?」
 狼狽しぶんぶんと首を横に振るクレイの口にぐいと押し込んだ。
 あまり色気のない口移しだったが、クレイには相当な衝撃だったらしく、
「!? !、!!、k@us3%0ma4#$”htdiw&$ND’&|\bhe7……!!」
 何やらよく判らない絶叫をほとばしらせたあと、どうにも格好よくなりきれない錬金術師は、チェリー・ボンボンを口に加えたまま、雄々しいほど前のめりに倒れてそのまま動かなくなった。
 ごしん、という景気のいい音がしたが、よくよく考えたらこの男、不死身らしいので、特に心配は要らないだろう。
「あらん」
 すっかり目を回しているクレイを抱き起こし、その頬に軽くキスをして、ニーチェは笑う。
「クレイのそういうところ……アタシ、好きよん?」
 聴こえていないと判っていて耳元に囁き、ニーチェはまた笑った。
 とばっちりで巻き込まれた、慌しい一日だったが、こういうのも悪くない、と、くすくす笑ってまたクレイの頬にキスを落とす。

 ――遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
 逃げ出した女性たちが通報してくれたようだ。
 これで、一件落着、ということだろう。

 ニーチェは、皆に何ごともなくてよかった、と安堵しただけだったが、このあとクレイが知恵熱もどきを出して一週間寝込むのは、――そして看病に押しかけたニーチェに盛大かつ悲痛な悲鳴を上げるのは、また別のお話である。

クリエイターコメント大変お待たせいたしました!
毎度代わり映えのしない挨拶で誠に申し訳ありません。

顔面からの土下座で盛大に謝意を表しつつ。
ともあれ、オファー、どうもありがとうございました。
バレンタインとチョコレートと愛情にまつわるプラノベをお届けいたします。

おふたりの、なんともいえないコミカルな関係には、思わず笑わされてしまいました。お陰で、大変楽しく書かせていただくことが出来ました。

つかず離れず、苦手だけどどうしても気になって、好きなんだか嫌いなんだか……という関係を、賑やかなコメディの中で描けていれば幸いです。

この先、おふたりの関係がどうなるのか、色々な意味で楽しみにしていますね。クレイさん頑張れ、超頑張れ。


それでは、素敵なオファー、どうもありがとうございました!
またの機会がありましたら、よろしくお願い致します。
公開日時2009-03-08(日) 19:20
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